唯 駆けるばかりに





  第拾四幕  
















  あれから、雨は止まずに降り続けている。



  気のせいだろうか。

  あの桜が、枯れ欠けている。







  何かを、伝えようとしているのか。



  あの桜が枯れる事なんて、今までに一度も無かったから。







  縁側に出ていた一志は、思いに耽る。



  不安が、頭を過る。







  そうしたら、後ろから人の気配が近づいて来るので

  心を落ち着かせた。











  「一志、濡れるよ」











  女雅がそっと近寄り、外を見る一志に向けて

  後ろから話し掛けた。







  「女雅らん、、、」







  振り向いて、先程まで思っていた事を女雅に伝える。











  「何か、とても嫌な感じがする」











  一志の言葉は、主語が無かったせいか

  女雅には意味が理解らなかった。



  女雅は、すぐさま問いかける。







  「何が?」








  女雅は、そっと手を伸ばし

  一志の肩に触れようとした、その時。







  途轍もない爆発音が、遠くで鳴っているのに気付き

  思わず手を引っ込めてしまった。











  「!」











  遥か遠くから、叫び声とも言う声が飛交う。



  それがどんどん、近づいて来るのを察した。







  何か、危険な物が近づいて来る。



  そうとしか思えずにいた時。











  「女雅!一志!!」











  白水と楓弥と真の、俺等を呼ぶ声が聞こえた。



  廊下を駆足になり、此方に向かってくる三人に

  少しの疑問を浮かべた。







  次に三人から発せられる言葉に



  思ってもみない言葉が、耳に入った。















  「京の兵が此方に!」







  「もう、直ぐ近くまで来てるんだ!」















  女雅は、我の耳を疑った。











  「え、、、」















  自分の父である帝の兵が、此方に向かって来ているらしい。

  しかも、もう直ぐ其処に居るとの事。



  京の屋敷兵は、帝の命令でなければ

  出兵する筈がない。



  自分が居ると、知っての事なのか。



  もしくは、何も知らずに襲撃をかけたのか。











  「女雅らん、、、」











  白水も、余程悲しんでいるだろう。

  今まで、ずっと遣えていた京帝だった。



  女雅の肩を抱き、俯く。















  自分の父に、裏切られた。



  悔しさと、悲しみの泪が滲む。



  何時も笑みの絶えない女雅だが

  今回ばかりは、笑みなどを作っている間も無く



  どうしようもなかった。











  しかし、幾ら怨んで悲しんでも

  現実の時は、止まることなく廻る。



  爆発音や、矢を放つ様な騒音が

  遠くで響いているだけだった。











  「今は、何も出来ないよ」











  必死のに堪える泪。



  其れに篭るは、怨みと悔み。そして、悲しみ。











  「早く、此処を出なければ」















  見つかったら最後、五人では太刀打出来る訳が無く



  きっと、殺されるだろう。







  唯今は、逃げる事だけを考える。



  全員が、いつまでも一緒にる為に。















  「女雅らんだけのせいじゃない。俺も、鬼だから」







  「俺を退治しに、来たのかもしれない」















  そう言った一志は、以前とはまるで違く

  心も意志も、強くなっている。



  今は、鋭く女雅に視線を向けている。











  「誰のせいでもないよ」











  楓弥は、皆を落ち着かせる為

  罪を誰にも被せなかった。



  むしろ、この中に罪を背負う者なんて居ない。

  そう思っていた。



  けれども、今は他の四人も

  きっと同じ事を思っているだろう。







  「早く、今は兎に角逃げよう」











  白水は言う。



  迫り来る京兵から逃げる為に。



  皆と、これからもずっと一緒に居る為に。



















  そして五人は、一志の屋敷を出て







  暗黒に迫る誘いの樹海へと















  消えて行った












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