刹なる音は 途絶えて





  第拾伍幕  切音
















  何刻、たったであろう。







  あれからずっと、走り続けていた。



  もう、息は途切れ途切れに

  足取は、ずっしりと重くなっていた。



  雨が降り、泥濘に足を捕られ

  体温さえも、奪われてきている。











  「どれくらい、来たんだろ、、、」











  流石に疲労が溜まり、一時休息を取る事にした。



  本当は一刻も早く逃げて、遠ざけなければならないが

  そう思うばかりで、身体は思いどうりにはいかない。







  「はぁ、、、」







  全員しゃがみこみ、相当疲れている様子だった。

  意識もはっきりとはしなく、頭もふらついている。

  全神経が鈍り、身体から力が抜けていく。



  限界など、とっくのとうに超えていた。











  その一瞬の隙が、五人の運命を



  大きくずらし、変えてしまう事を知らずに。



















  その時全員もが、自らの方角に解放たれ飛んでくる矢に







  気付いては、いなかった。











  もう、時既に遅し。



  五人からそう遠くない処には、辺り一面

  京兵で囲われていた。







  その内の一人が隙を見、五人が止まった所で



  思い切り矢を引き、放った。



















  矢は止まること無く、確実に此方に近づいて来ている。











  



  近づいて来る殺気に気付いて、真が叫んだ。







  「楓弥!!」















  真が楓弥に向かって叫んだが



  もう遅かった。







  声だ出た時には、矢は既に



  楓弥の背に、突き刺さっていた。











  楓弥は吐血をし、地面にうつ伏せに倒れた。











  他の四人には、それが、白黒で







  時が止まったかの様に見えていた。















  「あ、楓弥!!」















  全員が走り、楓弥の元へ駆けつけた。







  真が、自分より体の大きい楓弥を抱き上げる。







  苦しそうにしているが、死んではいなかった。



  辛そうに息をする姿に、四人は苦しめられた。



  唯声を掛けてやる事しか、出来なくて。







  すると白水は、楓弥の胸に手を当てて

  静かに目を閉じては、すぐさま行動に移った。











  「心臓には達していないが、重症だ」











  そう言った白水は、楓弥に刺さっている矢を抜き

  自らの纏っている着物の端を千切り、楓弥の身体に巻き付けた。







  「楓弥は、、、」







  「とりあえず、止血はしていた方がいいよ」







  白水の判断が早かったおかげで

  楓弥は一面を取り留める事が出来た。



  真は、嬉しさからか

  目に泪を溜めて、更に強く楓弥を抱き込む。



















  それを見ていた一志の中で



  何かがざわめく、音がした。







  心の底から込み上げてくる、騒音。















  そして、その音は途絶え



  音が、何も聴こえなくなっていた。











  唯、目に留まる光景が















  心に 谺する












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