脱殻に 酔い痴れて逝く





  第拾禄幕  
















  伐てや 伐てや 其の頚撥ねん  



  伐てや 伐てや 其の頚撥ねん















  楓弥を含む四人は、辺りに複数の人の気配を感じ

  周りの草木に神経を集中させ、殺気を籠める。











  しばらくして、草木の間から京兵が続々と出てきた。



  全ての兵が、腰に刃を携えており

  弓矢を構え、此方に矛先を向けていた。



  



  四人はそれを見て、またもや気を強張らせ

  鋭く目を尖らせ、京兵を睨みつける。



  その中で、何故か一志だけが背を向けて



  動こうとはしていなかった。











  「御主等が鬼とその、仲間共、か、、、」











  初めに口を開いたのが、馬に跨がり兜を被る男。

  きっと、この鬼退治の軍の頭だろう。



  其奴が、女雅を見てや否や

  口を詰らせ、睨みつけていた。







  「何の御積りか。御息子様」







  退治する鬼の仲間が、女雅である事に疑問を懐いた様子だった。



  しかし女雅は、其奴を睨み返し

  怒りを言葉に宿した。







  「其方には関係あるまい」







  「、、、」







  女雅の一言で怒りを覚えたのだろう。

  またもや睨みつけてくる其奴を、四人は睨み返し続けた。



  それに答える様に

  其奴は口を開き、確信突く言葉を放った。











  「何も答えないという事は、もう御息子でも何でも無い」











  その言葉を期に、四人は刃に手を伸ばした。



  傷が痛むであろう楓弥も、地に膝を付き

  刃を力強く握り、殺気を籠めた。











  「全員緒共伐ってしまえ!!」











  其奴が叫んだと同時に、全ての兵が背中の筒から矢を取り出し

  弓に添えて、構える。







  あまり動けない楓弥を抜かしての三人で、これほどの兵を相手にするの事は  

  不可能と言っていいほど、無理に等しい。



  それを理解っていながらも



  仲間を傷付けられた事に対しての怒りを

  抑える事は出来なかった。







  もう、先が分かっていて



  此処で終わるだろうと思っていた、その時。















  さすれば



  洩れる邪気と、凄まじい殺気。











  その凄まじさに気付いた、京兵は勿論の如く

  楓弥、女雅、真、白水さえも身を強張らせた。



  場は静まり返り



  凄まじい邪気と殺気だけが唯、漂うばかり。



  















  初めて持つ事が出来た、心からの大切な仲間。



  それすら守れずに、傷を負わせてしまった。







  仲間を守ろうと、誓ったんだ。



  月に、神に。



  そして、あの桜に、、、











  仲間を守れなかった事を、悔む気持ち。  







  それだけが、心の中を支配し、



  情を埋め尽して行く。







  仲間すらを守れぬならば















  我が身が朽ちても構わぬ。















  抑えが、効かなくなってきた。







  溢れんばかりの刹那さと、悔しみ。



  そして、その怒りこそが



  鬼の血を引き立たし、者の姿をも変貌させる。



















  その時に一瞬

  疾風とも呼べる暴風が、鎌鼬と化し

  辺りに吹き散らした。







  その疾風に驚いた京兵と三人は

  唯一人、目の前に立ち尽くしている人物の姿を目の当りにし



  言葉を失なった。















  「いっ、し、、、」



  











  女雅が一言、詰らせた言葉を放っただけで。



  その場に居た兵が息を呑み



  立ち尽くす人物の姿に、恐れ戦いた。















  一志は、以前とはまるで別人の容姿をし



  額からは二本の角が生え、爪と牙は黒く鋭く尖っており











  鬼の姿へと、化わっていた。















  ゆっくりと開いた一志の瞳は、赤く染まっていて







  牙が生えた口元がつり上がり、不敵に笑った。











  目の前に居るのは、紛れも無く一志な筈なのだが



  一志の中の何かが、違っていた。























  雷鳴は地に響き渡り、大粒の雨が、降注ぐ。















  さぁ、鬼と成り 狂おうぞ












  











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