鬼の情は 黄泉を彷徨う





  第拾八幕  嘆言の葉
















    瞬く程に零れる



     雫は礫に変わる















  ふと、我に返った。











  足元に違和感と、生臭い異臭を感じ



  そっと、視線を下に向けた。















  其処には、首を失くした



  血塗れの、人間の骸。















  そして、自分自身を見てみれば







  真赤に、染まっていた。















  顔の前に、手を持って来て見ると











  手には、長く鋭い爪。







  額には、上に向かって伸びる二本の角。



  



  口には、赤い雫滴る牙。























  一目で理解った。















  自分は、鬼になってしまった。























  何だか、とても怖くなってきて







  両足がガタガタと震えだし



  立っていられなくなりそうだった。











  それから、どうしたらいいか分からなくて



  唯その場に立ち尽くす、だけだった。























  庭の桜が、百に達した時







  深紅の桜の花弁は、全て地へと舞い散り







  枯れ朽ちた。



































  もう、取り返しのつかない事。







  何をしても、時が戻る事なんて無い。















  何故、気付かなかったんだろう。















  仲間を傷付けられた事が、許せなくて。











  仲間を守れなかった事が、悔しくて。  



















  自分を責めずには、いられなかった。























  その、苦しさからか







  鬼に、心を支配され



  人間の情を、奪われて











  心を捨て、鬼になったのだろうか。































  もう、人間ではない。











  人間を喰らわなければ生きれない



  狂奇に満ちた、鬼。







  それが、自分自身だと云う事。



 



















  この、醜き鬼の姿を







  あの四人にだけは



  皆だけには、見せたくはなかった。











  けれどもその四人は、今此処に居る。







  胸の奥が、きつく縛られた気がした。























  恐る恐る、四人の方へと顔を向けた。















  やはり皆は、自分のことを



  目を逸らす事なく、見つめ続けていて。







  醜きこの姿に、恐れているのだろう。



  



  その視線に、耐えられなくなって。



















  涙が、自然に洩れた。







  唯、涙だけが溢れてくるばかりで。











  何故に、こんなに心が傷むのだろう。







  嫌われ、見放される事など



  もう慣れた、筈なのに。











  何故か、途轍もなく哀しくて、苦しくて







  無償に、泣きたくなってきた。































  きっと、その内俺は











  鬼に心を奪われ、支配され







  人間だった時の心や情など、全てを捨てて











  完全な鬼と、成り得るだろう。  











  そうしたら必ず







  目の前に居る、あの四人の人間を







  喰ろうてしまうに、違いない。























  嫌だ。







  喰らいたくなどない。











  皆を、喰える筈がない。















  どうか、皆にだけは







  楓弥、真、女雅、白水にだけは



  



  嫌われたく、なかった。











  本当に、大切な仲間だったんだ。







  本当に、皆大好きだったんだ。



















  でも、そんな気持ちが伝わる筈もなく







  俺の中で、儚く舞い散るだけだった。















  もう、何もかも終わった。















  また、皆を裏切ってしまった。  







  前と同じ罪を、犯してしまった。



  



















  鬼の自分など、この世には必要ない。







  俺には、皆の仲間で居る資格なんてない。











  ならば自ら







  命を絶つまで。



































  一志は、足元の近くに転がっていた人間の骸の







  腰に携えていた刃を、勢い良く鞘から引き抜き











  それを、自らの咽喉元に当て















  思い切り、刃を曳いた。















  砕け散った心から 刹なさが滲んで












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