儚く舞い散る憶い





 心鏡 〜こころ〜
















  左ノ手に握る刃は



  躬らに光を向け







  鬼の嘆きの言の葉は



  心鏡に届かず枯れ朽ちて















  楓弥が、矢で撃たれた事に対しての事なのか



  仲間を守れなかった自分を、怨んでの事なのか











  その怒りから、姿を化え











  一志は、鬼と成っていた。



















  鬼だという事は、分かっていたけれど



  その凄まじい迫力に、一瞬驚いてしまった。







  







  鬼の情は、人をここまでも変えてしまうのか。







  姿形、そして、心までも











  支配し、埋め尽して逝くのか。























  あれが、鬼。







  背筋が凍る様な、異形と気。











  京兵さえ、恐怖に縮み上がる







  狂鬼の姿。



















  その鬼が行動に移り







  走り出したら、止まらない。



  止まる事なく、走り続ける。











  見事な位に、兵の攻撃を避けて行き



  あっという間に、頭の前に辿り着いて。







  其奴の首を掴み上げ、喰っていった。



























  その紅景が、しばし目に焼き付く。



















  喰われた其奴は、地に崩れ落ち







  辺り一面は、生血の臭いと、鬼の邪気。







  そして虚しさだけが、残っているだけだった。















  鬼の恐怖に震え上がり



  他に居た京兵全てが、一目散に逃げて行った。















  けれど



















  俺らは、その鬼を怖がり







  恐れ逃げる事などなかった。















  だってあれは、一志だから。















  姿形が違っていようとも







  俺等の大切な仲間であり、友達なんだ。











  怖がる理由など、何処にも無い。



  















  何があっても、信じてるから。







  信じようって、皆で決めたから。























  一志はもう、完全な鬼に成ってしまっているだろう。



  桜の話は前に、一度だけ聞いた。







  今頃、庭の美しき桜は百に足して



  あの深紅の桜は、枯れ死んでいるだろう。















  己の凡てを、打ち明けてくれた一志。







  鬼になっても、大切だという憶いは変わらない。











  見放す訳が、何処に在ろうというのだ。



























  すると



  一志がゆっくりと、此方に顔を向けた。







  その顔は、もう別人のようだったが







  一志に、違いなかった。















  爪は黒く尖り、口からは牙が生え



  二本の角は天を向き



  臼紅の髪の毛が、白髪に成ろうとも







  一志は、一志なんだ。











  だから











  皆で、「一志」って







  呼ぼうと、思ったんだ。











  安心させてあげようと







  優しく名前を呼ぼうと、してたんだ。



























  そうしたら、一志が







  一志が、泣いた。















  赤くなった瞳から、大粒の泪を零して







  泣いていた。























  突然の出来事に



  俺等は驚き、何も言葉が出なくなってしまった。















  その行動が







  一志を追い込んで、しまったのだろう。











  俺等のせいでもあったんだ。







  一志を闇へ、誘ってしまったんだ。











  一志の心が



  離れて逝くのが分かった。



































  そうしたら一志は







  先程喰った其奴の、腰に備えていた刃を抜いた。











  何をするのかと思った、その矢先に



















  その刃を、自らの咽喉元に当てて











  刃を、曳いてしまった。















  自ら命を、絶とうとしたんだ。















  痛みも苦しみも忘れて 色も時間さえも無くして












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