怪が起こす この世の奇





  第弐幕  奇怪
















  屋敷内をしばし歩き

  灯りが燈っている中のとある一角の部屋の前に着いた楓弥と真は

  襖を開けず、縁側部分に行儀良く静かに正座をし

  中に居るであろう人影に向かって、いつもやる物と同じ様に言葉を振舞った。







  「ご指名、有難う御座います。楓弥、真と申す者に御座います」







  「只今参りました」







  しばらくしてから、どこか聞き覚えのある声が

  部屋の中の人影から、聞こえてきた。











  「入っていいよ、あっきー、真ペー」







  其の言葉どうりに、襖を音を立てずに開けた。



  やっぱりと、思っていたとうりの人物が、中で腰掛けていた。

  正座をやめ、立って部屋の中へ入り

  部屋の中から、襖をそっと閉めながら二人が言った。







  「やっぱり女雅らんだ」







  「まぎらわしいな」







  「そんなつもりは無かったんだけどなー、、、」









  二人を指名し此処に呼んだ女雅という者は

  二人の知人でもあり、仲間とも呼べる者だった。







  女雅は、この京を治めているという帝の御息子でもあった。

  けれども、周りの堅苦しい京人と違って

  堅苦しい雰囲気は無く、明るくてじゃじゃ馬な性格をしていた。



  帝の御息子でありながら、京という物に興味を持たない女雅は

  もちろんの如く、帝になるなんて、考えてすらいなかった。









  女雅は元々楓弥と仲が良く

  身分関係無く人に優しく接し、少し頼り無い部分もあるけれど

  信頼できる大切な仲間だった。



















  俺と女雅らんは、昔からの長い付き合いで。

  真と知り合ったときに紹介に行ったら、すぐに真とも仲良くしてくれたし

  真も、女雅らんとなら楽しそうに話したり、振舞ったりしている。



  人と関わるのが苦手な真でも、すぐに話せる仲間なんだ。







  「今夜は、何を謌おうか、、、」







  真が琴を準備し始めたのを見て、楓弥も帯から舞扇を取りだそうとした。



  舞踊を始めようとする二人に、女雅は少し悪気をとられらがら言った







  「あ、ごめん。今日は、謌はいいよ」







  苦笑しながら頭に手を置く女雅の方に

  二人はさっきの言葉に疑問を持ちながら顔を向けた。







  「じゃあ、どうして呼んだの?」







  「言っておくけど、暇潰しってのは無しだよ」







  二人から疑問と疑惑を同時にぶつけられ、少し慌てぶりを見せる女雅。



  そして、自分の隣に行儀良く座って今まで黙っていた人物に対して、場の救助を求めた。







  「そんなんじゃないってばー、、、ね、白水」









  さりげなく、女雅が自分に対し助けを求めている事が分かった、白水という人物。



  この者も京人であり、幼い頃から女雅の傍に仕えていた。

  仕えていたというよりも、友的存在だった。

  女雅を一番理解し、女雅もまた、白水を一番理解しているという関係だった。

  京兵の中でも真面目に優秀で、周りからも良い評価を与えられていた。





  白水は半分呆れながらも、御馴染みの事だというような口振りで話し始めた。







  「わざわざごめんね。実は、二人にちょっとお願いがあるんだけど、、、」







  白水は、少し真剣そうな顔つきで、言った。









  「俺等と、いっしょに来てほしいんだ」





















  いきなりそんな事を言われても、納得しかねない。

  理由は兎も角、楓弥は当り前とも呼べる質問を一つ。







  「いつ?」







  「あ、今からなんだけど、、、」











  あまり思いたくない返事が、即答で返ってきてしまった。



  返答の仕方に困ったので、しばらく黙っていた。

  そうしていたら、溜息をつく間も無く、白水が話し始める。







  「実はこれ、帝からの、命なんだ」







  女雅の父君であろうが、京が小さかろうが

  帝は帝。自分達が住んでいるこの京を治めている人物でもあって。

  仕方なく二人は、その命を受け入れる事にした。



  ふと、楓弥が思ったことを口にした。







  「じゃあ、その命とやらに、俺等も同行するってこと?」







  「まぁ、手早く言えば、そういうことかな」









  今からというのが少々荷が重いが

  唯同行するだけのことだと思ったので、深くは考えないことにした。







  「二人とも、行ってもらえるかな」







  白水が心配そうに首を傾げて問いかけてくるので、

    思わず口早に言ってしまった。







  「うん」







  「いいよ」







  白水のなんだか可愛いらしい仕草や、仲間としてということに負けて

  帝からの命の同行に、承知した。

  少し笑みを浮かべたら、白水も嬉しそうな顔をしていた。







  「二人とも、ありがとね」







  女雅も嬉しそうにして言っていた。

  それにつられて、さっきまでの嫌な雰囲気を吹き飛ばすように

  みんなで微笑みかけた。







  この四人でなら、どんなことでも平気だと思ったから



  命でも何でも受け入れられたんだ。

















  「それで、その命の内容なんだけど」







  そういえば、内容はまだ聞かされていないことに

  白水の言葉で気が付いた。

  楓弥と真は、何も言わずに、白水の話しを聞き入れた。







  「二人とも、鈴音の鬼の噂、一度は聞いたことあるよね」







  「、、、あるけど、それが?」







  さきほどまで忘れていた噂のことが、白水の話しによって思い出された。

  そのことを疑問に思いながらも、白水の次の言葉を待った。



  そいて白水は、簡潔に命の内容を話し始めた。

  それが、四人の運命をも変える、話しだとは知らずに。







  「その鈴音の鬼という怪を見つけ出し、退治する事」







  「これが、今回帝から下された、命なんだ」















  時は廻り始め 四人の情を志に

  またその志を 一つに












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