世の誘惑に 惑わされ  





  第弐拾幕  
















  時を廻り、人間に生まれてくる事があるならば







  その時には、皆に出会える事を、現に見て











  華舞うこの世に 枯れ逝く我身よ



  何処へ仕舞いし 数多の記憶よ



  心の悼みを包んでくれ























  「ねぇ、みんな」















  一志が人間の姿へと変わっていったことに、呆気を取られていた四人は



  一志の呼び掛けによって、我に返った。











  何か、云いたい事があるらしく



  掠れた声で、四人を呼び掛けたのだろう。







  本当は、喋らない方がいいのだが



  一志の為にも、それを止めずに

  首を押さえ、頭を起こして、話しやすくしてやった。







  そして四人は、視線を一志へと向けた。















  「俺は、鬼だけど



  それでも皆は、信じて、くれたよな」















  一志の言葉は、途切れ途切れで

  今にも消え入りそうな声だったが



  四人の耳には、しっかりと届いていた。











  「そんな事、あたりまえ、、、」







  「女雅らん。今は、何も言わないであげて」







  「、、、」











  一志の言葉に対して、女雅が返事をしようとしたが



  そんな事をしたら、時が迫るだけで。



  何も言わずに、一志の話を聞き入れる事にした。



  







  少しでも長く、一志と一緒に、居たいから。







  少しでも多く、一志の声を、聞いて居たいから。



















  「俺、自分でやっといて、あれだけど



  もう、駄目みたいだから



  ちゃんと、言うね、、、」



























  もう駄目なんて、言って欲しくなかった。







  大丈夫だと、心配いらないよとだけを



  言って欲しかった。











  一志の顔に付いている血も



  ほぼ、乾いている状態で。











  時が迫っている事ぐらい



  分かっていたけれど







  それを、受け止めようとしない俺等が居て。







  唯一志の話を、聞く事しか出来なかった。



















  四人は、滲む泪を袖で拭き



  真剣な顔付きで、一志の話を聞く事にした。







  それを見て、一志は口を開き



  ゆっくりと、話し始めた。



















  「最後も、皆と、一緒に居れて



  人間にも、戻る事が出来た。



  それは、皆が居てくれたから、戻れたんだと思う。」







  「これ以上、何も、望まないから」











  「一緒に居てくれて、ありがとな、、、」



























  先程、泪を拭ったばかりなのに







  またもや視界が、翳けてくる。











  「泣くなよ」











  ごめんね一志。



  それ、出来そうにない。











  「御前等泣いたら、俺も泣けてくるじゃん」



















  分かったよ。







  もう泣かない。







  だから、一志も泣くなよ。















  急いで、目に溜まる泪を拭い



  精一杯の笑顔で



  一志に笑って見せた。











  そしたら一志は



  安心したような顔で、話し始めた。



















  「今は、人間だけど



  また、鬼の姿に戻るかも、しれない」







  「鬼のまま、生きたくないんだ。



  だから、、、」



















  一志は、もうこれが最後の言葉と、言わんばかりに







  深く、息を吸って







  瞳を、潤ませた。







































  「輪廻の時を廻り、また、逢おうね」















  「その時は、俺もきっと」



















  「ちゃんとした、人間だから」































































































































  声は、途絶えて。























































































  一粒の泪が、頬を伝い















































































  一志は、瞳を綴じた。



















































































































  また、逢おうね







  きっと、逢えるよ。



















  ちゃんとした、人間だから







  成れるって、信じてるから。











































  どんな姿を、していても















  それが、鬼であろうが







  妖怪であろうが























  俺等はずっと、一緒だよ。


























  必ず、また逢おうね。















  約束だよ。







































  もうその頃には、雨は已み











  雲間から、燦が、射し込んでいた。























  そして、何処からか











  深紅色の、桜の花弁が舞い























  一志の頬の、泪の痕に















  添って凪がれた。













































  生命の息吹く春も 陽炎纏う夏も

  徒然なるままに この想いを消せぬまま



  儚げに散る秋も 吐息を奪う冬も

  徒然なるままに この想いを消せぬまま












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