其の姿に 桜舞う





  第四幕  御前
















  驚いて、鬼かと目を凝らせば



  思っていた鬼の恐ろしい姿ではなく







  見事な羽衣を身に纏い、髪は長く臼紅をしている



  美しい姿の 







  女が、立っていた。







  暗闇でよくは見えないが、薄い衣のような物を頭から被さっており

  顔だけが見えなかった。



  その時に一瞬だけ、辺りから風が吹いてきた。















  しばらく其処に立ち尽くしていたら、女が口を開き、話し掛けてきた。







  「どうか、なさいましたでしょうか。殿方様、、、」







  透き通る、鈴の音の様な声だった。











  其の声を聞いたからか、四人全員の緊張感が少しだけ溶け

  先程の凄まじい邪気は無くなって、周囲は元の夜の森に戻っていた。







  「いえ、何も」







  白水が初めに口を開き、女に向かって返答をした。







  女も口を開き、白水に言葉を返した。







  「さようで御座いますか」











  その会話に、女雅、真、楓弥は ほっ と胸を撫で下ろした。



  きっと、さっきの鈴の音は空耳か何かだろうと思い込んで

  手に握る刃を鞘にしまいつつ、女の方へ歩み寄った。



  近くへ行っても尚、女の顔は見えず

  被っている衣だけが揺れていた。







  「其方、この奥深い森で一人、、、何をなさっていたのですか?」







  誰もが思った事を、真が初めに問いかけた。



  こんな闇夜に女が一人、森の深部にいるのは可笑しいことで

  其の事を疑問に思い、問いかけたのだが。







  「殿方様は、何故此処に参ったので御座いましょう」







  「此処等一帯は夜にもなれば、道すら見えなくなり、危のう御座います」







  真の問いかけに答えてくれてはいなかったが



  もしかしたら、この森の何処かに住んでいるのかもしれないし

  そうしたら、俺等より森に詳しいはずだから注意をしてくれた。

  とも考えられたので。







  「御忠告有難う御座います」







  白水が女に向かって軽く礼をし



  女の方も、それに答えるように首だけで御辞儀をした。







  「其方は?」







  女雅は、やはりさっきの事が気になっていたらしく

  女に向かってもう一度、問いかけてみた。



  今度は顔を覗こうと、首を傾げてみた。



  しかしそれは、女の言の葉によって阻まれてしまった。







  「殿方様。今宵の宿が無いのなら、どうぞ妾の屋敷まで」











  いきなりの事に、四人は驚きを隠せなかった。



  夜に突然現れた女の屋敷に四人もの男。

  というのは、何かと怪しく感じられたので。



  もちろんそんなつもりは無いのだが。







  「でも、何かと悪いでしょうし、、、」







  そう思った白水は、女の誘いを拒んだ。



  しかし、女はしばらく何かを考え込んで







  「構いませぬ。さぁ、どうぞ」







  そう言った。















  女は振り向き、ゆっくりと前へ進んで行った。



  自らの屋敷まで、招いてくれるとのことだろう。







  「あれ、、、行くの?」







  楓弥は女には聞こえないような声で

  他の三人に向けて、どうするのかを問いかけた。







  「せっかくの親切、無駄にできないでしょ」







  女雅らしい、とも言うべきか

  そんな言葉を発した後女雅は

  女の後を追うように、歩き始めた。



  楓弥と真も、少し悩んでから顔を見合わせ

  遅れないように少し小走りで、女と女雅に続いた。















  宿を借りることにした四人は



  女の正体も分からぬまま



  後を追って行った。











  唯白水だけが、しばらく立ち尽くしてから追って行ったことを











  誰も見ては、いなかった。
  











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