彩保つ 現御殿





  第伍幕  鬼御殿
















  季節訪わず 桜舞い散る我が御殿





  どうか 見守っておくれ















  四人はまた、驚きを隠せずにいた。



  こんな奥深い森のさらに奥へ行ったところに



  遠くから見ても、一目で分かる



  立派な御殿屋敷があった。







  鳥居門は赤く、彩りのある木々で飾られており

  奥には見たこともないくらいの数の桜が、咲き乱れているのが分かった。


  そのまた奥にはきっと、この雰囲気や彩に合う屋敷が

  建てられているのだろう。











  まるで 昊に 浮ぶ 蜃気楼











  「綺麗だね」







  思わず、女雅が言葉を零す。







  「こんな処に、こんなのがあったなんて、知らなかった」







  真もまた、その御殿に驚いているようで。



  しばし立ち尽くして、見事な御殿に見とれていると

  前から声が聞こえてきた。







  「屋敷は、この奥に御座います」







  そう言ってまた、女はゆっくりと歩き出す。



  その華麗な後ろ姿にも、見とれてしまった。



  この御殿に負けないくらいの 



  華やかで美しい 前を行く



  御前の姿























  しばし彩道を歩き、たどりついたのは

  思っていたとうりの姿をした、屋敷が建てられている処。



  それを見、また辺りを見廻せば

  広く、桜仕舞いし庭園があり

  これまた、見事な景色だった。



  今は夜で、辺りは暗く、よくは見えないが

  多数の桜の放つ輝彩によって、昼間のように感じた。















  その後、屋敷の中へ招かれ

  一時の休息がとれた。







  「近くでみると、やっぱり違うね」







  その楓弥の言葉も、この御殿が綺麗だということを示し

  他の二人も、納得できる言葉でもあった。







  「御ゆっくりと、、、」







  そう言い残し、女は部屋の襖を閉め去って行った。







  「あの方も、綺麗だよねー」







  女が去って行った後も、襖の方を見ていた女雅は

  あることに、気が付いた。







  「、、、あの、白水?」







  女雅の言葉に応答する気配も無く

  白水は眉間に皺をよせ、何かを考え込んでいる。



  何か、引っ掛かる。







  「白水ー聞いてんのー?」







  「女雅らん、皆、よく考えてみて」







  ようやく発した白水の言葉が理解できず

  女雅が変な声を上げた。







  「はぁ?」







  楓弥と真も、白水の言葉の意味が分からなかったらしく

  二人揃って首を傾げている。



  意味が分かっていない三人を理解させる為

  白水が言葉の意味を説いていった。







  「こんな森の奥深くに、ここまでの御殿屋敷を保つことは、不可能に近い。むしろ、ありえない」







  「それに、あの女、、、」







  白水の言葉を聞けば

  どうやら白水は、この現の様な屋敷と女を疑っているらしい。



  しかし、この御殿も、あの美しい女も

  現で無く、実際に

  この世に存在している。







  「、、、何が、言いたいの?」







  真は、白水に思っていることを、自ら問いかけた。







  「鬼は、人をも騙すって、聞いたことあるし



  それ位のものなら、幻を見せる事だってできるだろ」







  もしかしたら、怪の仕業かもと

  思っているのだろうか。

  白水の言葉は、明らかにそんな事を、示していた。







  「それって、、、」







  白水の考えは、三人が思っていたとうりの事でもあった。



















  「この御殿は、幻かもしれない。







  つまり、あの女も、鬼だっていうことも考えられる」



















  全員が、白水の言葉に悩まされた。



  確かに、今思えばこの屋敷も、あの女も

  この世の物とは思いがたい。



  他の人間も、この幻やあの女に騙されて

  喰われたのかもしれない。



  不安が、過ぎる。







  なんだか、白水の言った事がだんだん正しく思えてきてしまった。



  しかし、その中で女雅が一人

  沈黙を破った。











  「そんな訳、無いじゃん」







  女雅は何故か、白水が言ったことを本心には受け取らず

  冗談と思っていながらも、言葉を詰まらせるような口振りで言っていた。



  女雅は、この御殿も、あの女も、怪ではないかということを

  あまり信じたくなかった。










  「そう言い切れる?」







  命が懸かってんだよ、と言わんばかりの楓弥の言葉。



  本当は他の三人も信じたくはないだろうが

  ここまでくれば、嫌でも信じたくなってきていた。







  「俺、鬼は欲に餓えた人間の姿だって昔聞いたことあるよ。



  それが本当で、あの方が鬼ならば、出くわした時点で喰うはずだと思う」  







  考えてみれば、そうかも知れない。



  女が鬼ならば感情無く、自分達を喰っていたかもしれない。

  御丁寧に自らの屋敷まで招き、宿を貸すはずがないだろう。



  その考えと、女雅の珍しい真剣な顔つきに

  三人は、負けた。











  「分かったよ女雅らん。でも、夜は寝ないで見張る」







  白水がもしもの事を予測し

  三人は刃を手に持ち、横にならずに目を閉じた。



  女雅も、とりあえずは刃は持たなかったが

  三人と同様、横にならず寝ることにした。











  四人はそのまま、朝を迎える事にした。











  人の心は

  鬼か 仏か
  











    

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