灯火は 妖を映す





  第禄幕  妖笑
















  気が付けば、朝。



  はっ と目を覚まし、辺りを見廻す。







  楓弥と白水は、あのまま刃を抱えて座って寝ていたが

  女雅だけが白水の膝に凭れ掛っており

  ほぼ横になって寝ている状態だった。







  「あのまま、寝ちゃったか、、、」







  心配していた事が何も起こらなかった為

  誰よりも早く起きた真は、少々欠伸をし

  皆を起こそうとした。



  その時











  「失礼致します」











  襖の向こうに見える、一つの人影。

  先程の声は明らかにその人影からの物で。



  間違い無く、昨日の女の声だった。







  昨日の疑いがある為、一瞬身を強張らせたが

  真は冷静を保ち、声のする人影へと目を向けた。  









  その瞬間

  目を向けた方の襖は開き



  目の前を覆う朝日と共に

  女の姿が目に入る。











  「御気分、如何に御座いましょう」















  昨日会ったのは夜で

  薄衣を被っていたせいで、女の顔はよく見えずにいた。



  しかし、今は薄衣を被っておらず

  顔がよく見えていた。







  初めて見たその顔は

  声に合う美しい顔立ちをしていた。



  真は、なんだか急に恥ずかしくなり

  少し見て、返事を返すと共に

  女から視線を外した。







  「悪くは、ありませぬ」







  特に悪くもないので、そう答えた。



  すると、朝日の光が入り眩しくて起きたのか

  他の三人の目が開いた。



  三人は、やはり気配に気付いたのか

  女がいる方へと目を向け、存在を確かめた。



  一瞬女を見た三人も、真が思ったこととほぼ同じ様な事を思い

  しばし女を見上げていた。







  「昨夜は、どうも有難う御座いました」







  白水は、手に持つ刃を下に置き

  女の方へ向き直して、晩の宿を貸して頂いた事に対して

  礼を言った。







  「構いませぬ。御互い様ですから」







  それを言った後、女は失礼致しましたという言葉を付け加え

  襖を閉めようとしたが



  慌てた様子の女雅が、女に向かって問いかけた。







  「あの、この近くで鬼の諷説を耳にします。



  何か、ご存知でしょうか」







  その言葉は、女が鬼かどうかを試すような言葉で

  どうしても、昨日の疑いが信じられずにいた女雅が

  問いかけた。



  しかし、女雅を入れた四人は

  女の顔立ちや言葉遣いを見る限り、鬼でなさそうな雰囲気をしていたので

  昨日の女への疑いも、晴れかけていた。



  しばらく経って、女は女雅の問いに対して口を開いた。







  「さぁ、、、」







  曖昧な言葉だけを残して、女はぴしゃりと襖を閉め

  去って行った。







  「やっぱりあの御方、鬼じゃないよ」







  半端な返事ではあったが、疑いが晴れかけている四人には十分な言葉であり

  また女雅も、確信に近い事を言っていた。







  「俺もそう思うけど、油断は出来ないよ」







  やっぱり、白水は今だにちゃんと信じようとはしていなかったが

  白水の中でも、女への疑いはほとんど晴れていた。







  「分かってるって。白水は隙が無いなー」







  鬼の様な雰囲気が無い女は

  やはり鬼ではないという事が事実なのかもしれない。



  本当の事はまだ知らないが

  四人は、とりあえずそう思うことにした。

























  その会話は、四人の部屋から大分離れた

  女が入って行ったはずの部屋にいる男の耳にも

  何故か届いていて。



  昼間だというのに、ほの暗い部屋の中の男は



  また、妖しき笑みを浮べている。











  蝋燭の灯火が 幽かに揺れた
  











 

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