二つの違い 二つの運命  





  第八幕  人と怪
















  住まわせてもらってから、何日か経ち



  部屋にいてもすることが無く、暇だった楓弥は

  部屋の襖を開け、廊下に出る。











  あれから何度か森へ行っても、鬼どころか、鈴の音さえしないし

  最近じゃあ、襲われたという情報も耳に入ってこない。



  本当に、鬼なんているのだろうか

  最近は、そんな事をも思うようになってきていた。







  楓弥は、寝泊りしている部屋を後にし

  しばし縁側部分を歩く。



  すると前からも、人が近づいて来る。















  近くまで来て、よく見てみれば



  自分の赤髪と色が似ている、長い紅髪が目に入った。







  向こうも俺に気付いたらしく、顔を上げた。



  顔を見れば、やっぱりその人物は



  一志だった。











  もう長く此処に泊まらせてもらっている為、一志とは何回か話したことはあるけど



  そこまで関わりを持とうとはしなかった。











  「一志、どうしたの?」







  一志が部屋を出ていた理由を

  なんとなく、聞いてみた。











  「少し、外に出ようかと」











  どうやら、これから庭園に出ようと思っていたらしく

  縁側から庭へ出れる、渡に向かう途中だとか。



  丁度、暇を持余したところだった。



  外に出ても行く宛てが無かったので

  一志に着いて行く事にした。











  「俺も、一緒に行っていい?」











  自分を指差し、一志に断りを告げた。











  「うん」











  そう言った一志の隣に並び、それから一緒に歩いて行った。

























  しばらく歩き、渡を降りて

  この広い庭園に足を踏み入れた。 



  庭園は緑が豊富で、何より桜の樹が多く

  その花弁が、庭全体を包み込むように舞っていた。



  そういえば、女雅らんもすごいって

  言ってたなー、、、











  麗しきかな、その彩。















  二人は、庭園の庭池架かる橋の元まで行き

  一志が立ち止まるのと同時に、楓弥も一歩遅れて立ち止まる。



  桜の香りに、酔い潰されて。



















  「一志は、桜が好き?」











  「、、、え?」



















  楓弥の言葉が、頭の中で谺する。



















  前にも一度、この様な言葉を耳にした事がある。



  約束という物を初めて交わした



  志有る人間が、頭にポツリと浮かぶ。











  あの時は、唯桜を羨ましく想っていて



  あの様な姿になりたいと、密かに思っていただけであったが







  何故か、その言葉に心が傷んだ。















  「うん、好きだよ」















  仕舞いし花弁を一枚掴み、口元へ持っていき

  目を綴じ、優しく口付けをする一志が



  何だかとても、綺麗に見えて仕方がなかった。











  辺りを舞い、自分等を包む



  温かく、優しい温もり酔いしれて



  目に入るこの風景が、幻影に見えてくる。



















  一志に見とれていたら



  綴じていた目が開き、自然と目が合ってしまった。





  それが急に恥かしくなり、目線を泳がせながら

  何か話題を持ち込むのに精一杯だった。







  「そういえば、真って人とは、もう話した?」







  一志は、視線を頬を赤らめながら

  視線を泳がし話し始めた楓弥を見て

  さりげない笑みをこぼした。







  「いや、話したことないよ」







  真は人見知りだからなーと、小さく独言を言った楓弥は



  ふと思い、真を一志に紹介するような話をし始めた。











  「今度、話してみなよ。


  口数は少ないけど、すごく優しい子だから」







  「ついでに、俺と真は舞踊をしていて。


  俺が舞で、真が琴をやってるんだ」











  少し自慢気話す楓弥を見ていた一志は、何かを思った様子で



  上を見上げ、昊に向かって微笑みかけた。













  「今度、舞を見せてね」























  女雅も、楓弥も、自分に対し信頼を持っている。



  普段はここで喰うものの、何故か喰う気がしなかった。



   



  むしろ、この二人を喰うことを



  自ら拒んでしまっていた。











  こんな自分が、自分でない気がして







  嗚呼、無情、、、



























  心優しき四人の人間は、鬼の心を持たず



  仏とも呼べる人間の心を持ち、それを解放していて







  一志という者を、鬼という名の闇から救うであろう















  強い志を持つ、人間だった。























  一志の中の鬼の心は







  もう、鎖されかけてきていた。











  二つの運命縺れ逝く

  溶けないままに
  











 

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